世界線終点

形而上学や行為に関する(主に哲学的な)文献の読書ログ

Ehring, D(2011)."Tropes"/要約part.1

このブログの最初の記事を、科学哲学者Douglus Ehringの2011年の著書の要約記事とする。

Douglus Ehringによる本書は、現代形而上学における「性質や物体は何であるか」という問にまつわる論争の一部をなすものである。性質は世界についての理解に欠かせないものであり、我々は性質が実際に世界に存在しているようにふるまっている。 だが実際のところは?

Ehringの中心的なアイデアは以下のように要約される。 

「性質は、持続的な抽象的個別者であるところのトロープが形成する自然なクラスによって説明され、具体的個物は、互いに共在するトロープの束に還元される。」 

 

今回の記事はイントロダクションであり、形而上学についての諸説の地図をつくる作業、そしてEhring自身の見解の表明だ。

 

 Introduction

1. 希少な性質、問題、性質の理論 

1.1 希少な性質 

我々が性質について話すとき、それは多くの場合述語を通じてである。有意味な述語は性質と同一視できるだろうか。 

Lewisによれば、すべての有意味な述語がそれに対応するありふれた性質/abundant propertiesを持つ*1(Lewis 1986b)。一方で希少な性質/sparse propertiesは、ありふれた性質とは違い、類似性や因果性の説明への貢献によって選び出される*2。Lewisは希少な性質を世界の最も基盤的な性質としたが、その必然性については批判がある(Schaffer 2004)。 

 

1.2 性質にまつわる二つの問題 

1.2.1 多にわたる一*3

個物の間の類似性はそれぞれが持つタイプの一致として考えることができるが、複数のトークンの間でのタイプの一致はどのように説明されるべきか。 

一つの方法はまばらな性質を複数の個物に共有される普遍者/universalsとして考えることである。 

 

1.2.2 複数回にわたる一 

同一のトークンが複数の時間で持つタイプの一致をどのように説明する? 

例えば赤いボールが完全に破壊されて完璧に類似した別のボールに置き換えられたら? 

A.その「赤さ」は同一ではない。 

性質の置き換えは一つの個物に関しても起きうる。 

電荷を帯びたある個物が、電荷を消去し、元と同じ電荷を与える機械にかけられたら? 

A.その個物が帯びた電荷は同一ではない。 

Ehringはこれを性質実例の「持続」の問題だと考えている。  

 

1.3 性質についての諸理論 

これら性質の問題に対処する理論群を紹介する。  

1.3.1 類似性個物唯名論 

類似性個物唯名論/resemblance object nominalismにとって、個物oがある性質Fを持っているということはoが他のさまざまなFである個物に全般的に類似しているということで表される。  

 

1.3.2 自然なクラス唯名論 

自然なクラス唯名論/natural class nominalismにとっては、aがFであるということは、Fである物体が属する自然なクラスの一員であるということである。  

 

1.3.3実在論 

Armstrongが主張するタイプの実在論/universalismでは、性質や関係は普遍者であり、それらは一つ以上の場所に全体として存在/wholly presentできる。 

実在論において、部分的または完全な類似性は普遍者の共有によって説明される。  

 

1.3.4 標準的なトロープ唯名論 

トロープ理論/trope theoryを採用する者にとっては、性質は普遍者ではなく個別者である。 

個物a,bが白さという観点から似ているとき、2つの個物は同一ではないが類似した「白さ」のトロープを持っている。 

ここで、トロープ間の類似性や自然なクラスへの所属はトロープの本質から決定される。  

 

1.3.5 類似性トロープ唯名論 

類似性トロープ唯名論/resemblance trope nominalismは、トロープの本質が他のトロープとの類似性によって決定されると論じる。 

1.3.6 自然なクラストロープ唯名論 

自然なクラストロープ唯名論/natural class trope nominalismは、トロープからなる自然なクラスへの所属がトロープの本質を決めると考える。 

 

1.4 性質についての本書の主な主張 

1.4.1 普遍-個別の区別 

普遍者と個別者は(存在するとしたら)どのようなものでどのように違うのか、本書では以下のようなWlliamsによる複製を用いた特徴づけを採用する。 

「個別者と違い、普遍者の完全な複製はありえない。」  

 

1.4.2 トロープの存在の擁護 

普遍者とは違い、トロープは性質持続の問題にうまく答えられることを示す。  

1.4.3 トロープと心的因果 

トークンレベルの同一性:心的な原因のトロープは物理的なトロープと同一である*4 

タイプレベルでの部分全体関係:心的なタイプはトロープのクラスであり、それを実現する物理的なタイプは前者のサブクラスである。  

 

1.4.4 標準的なトロープ唯名論への反駁 

Campbell的なトロープの単純性は維持できない。トロープは少なくとも本質を与える部分と個別性を与える部分に分かれる。  

1.4.5 自然なクラストロープ唯名論の擁護*5

自然なクラストロープ唯名論に向けられた性質の様相的脆さに関する反論は、対応者理論を利用することでかわすことができる。  

 

2. 物体についての理論 

2.1 塊理論 

類似性物体唯名論と自然なクラス個物唯名論は、個物が性質を構成要素として持つことを認めない。この二つは、性質は個物に対して二次的なものとして考える塊理論/blob theoryである。  

2.2 実体帰属理論 

実体帰属理論/substance-attribute theoryに分類される理論においては、普遍者やトロープなどの性質は基体に帰属される。 

Armstrongにおいては、個物の性質でない構成部分は薄い個別者/thin particularであり、普遍者と一緒に個物を構成する。  

 

2.3 束理論 

束理論/bundle theoryは個物が基体や薄い個別者など、性質以外の構成要素を持つことを認めない。物体は互いに共在/compresentする性質の極大もしくは完全な和に還元される。  

2.4 具体的個別者に関する主な主張 

2.4.1 トロープの束理論 

共在関係を自己関係的関係ととらえることで、束理論に向けられた「共在関係の無限後退」をかわす。 

 

Ehring, Douglus.(2011) "Tropes: Properties, Objects, and Mental Causation".OUP

*1:Lewis自身の見解では、性質は可能な物体の集合である。

*2:性質にとって因果的役割が本質的であるか、という問題は後のセクションで議論される。

*3:一つのトークンが複数のタイプを別個に持ちながらそれらが混ざり合わないのはなぜか、つまり「一にわたる多」の問題もある(Rodriguez-Pereyra 2002)。

*4:Ehringによれば、因果関係の関係項はトロープである(Ehring 1997)。

*5: Stoutがこのタイプの理論の最初の提唱者として知られる(Stout 1921)。